矛盾だらけの「自白」石川さんの無実を再確認

 石川一雄さんは事件から半世紀以上が過ぎた今も無実を訴え続けています。石川さんと獄中をともに過ごしたえん罪被害者の「獄友」である布川事件の桜井昌司さん、足利事件の菅家利和さんのお二人が石川さんとともに「自白」に沿って狭山事件の現地を歩きました。
 多くのえん罪事件は強引な取り調べによってウソの「自白」が強要されてきました。真犯人ではない人が強要・誘導され、無理矢理導き出された「自白」には、おのずと矛盾が現れます。石川さんの自白の通りに現地をたどり確かめてみれば石川さんが無実であることが証明できるはずです。
 「獄友」の二人がたどった狭山事件の現場を体験し、狭山事件の真実を感じてください。


たまたま出会って誘拐を決めた

 石川さんの「自白」ではたまたま出会った女子学生を誘拐しようと決め、乗っていた自転車の荷台を押さえて止め、約700メートルも離れた犯行現場(雑木林)までの道のりを自転車をはさんで並んで農道を歩いたことになっています。学校帰りに見知らぬ男に呼び止められ黙ってついて行くなど、到底考えられません。知らない男性に荷台を捕まれたとしたら激しく抵抗し、逃げることができるはずです。

自転車を挟んでいっしょに歩いた?

 被害者の女子高生は自分の自転車を持ち、石川さんは自転車をはさんでいっしょに歩いたとされる農道です。
 「スポーツ好きで気が強いタイプ」と父親が証言するほど勝ち気な女子高生が見知らぬ若い男に黙ってついて行くでしょうか。

 事件当日、この両脇で農作業をしていた人たちもこの2人が歩いたのを見ていないと証言しています。。自白のとおりに再現してみたところ、自転車の荷台を押さえて止めることは不可能でした。

目撃者が一人もいない

当時の狭山周辺では養蚕が盛んでした。カイコの神様である荒神様では毎年5月1日にお祭りが行われます。事件当日も7、800人がお祭りに集まっていましたが、石川さんを見かけたという人は誰ひとりいませんでした。
 お祭りでは流行歌がスピーカーで流れていましたが、石川さんは聞いていないと証言しました。
 判決では「たまたまレコードがかかっていないこともあり得るし、レコードがかかっていても石川さんが気にとめなかったこともないとはいえない」と二重否定しています。

犯行現場の隣の畑で農作業

「自白」では雑木林で強姦・殺人が行われたことになっていますが、血液反応を含めて、ここが犯行現場であることを示す証拠は何一つありません。
 「自白」では被害者は「キャー」「助けて」と大声で叫んだことになっていますが、すぐ隣の畑で農作業をしていたOさんは悲鳴も聞いておらず人影も見ていません。Oさんが作業を終えた地点と犯行地点は約20メートルしか離れていません。
 Oさんは弁護団に対して「当時から本当にそこで殺人事件があったであろうかと疑問に思ってきました」と語っています。

別の場所で発見された「カバン」

 被害者のカバンが発見された場所です。
 ここは事件当時、5月3日から8日にかけて大がかりな山狩り捜査で何度も丹念に探索された場所でした。何も発見されなかったのに、6月21日に石川さんの自白にもとづいて発見されたことになっています。
 最近開示された取り調べの録音テープで石川さんは「教科書とノートと一緒にカバンを捨てた」と証言していましたが、別々に発見されるなど不自然な点が多く、どれ一つとっても無実であることを証明できます。

別製品の腕時計を発見

 「自白」にもとづき発見されたとされる被害者の腕時計にも不審な点が多くあります。警察が当初捜していた腕時計は「シチズン・コニー」という製品であるにもかかわらず、証拠とされたものは「シチズン・ペット」というまったく違う製品でした。
 証拠開示された航空写真をもとに調査すると石川さんの「自白」とまったく別の場所でカバンが発見されていました。有罪の根拠となった「秘密の暴露」はなかったのです。

あまりに不自然な発見経過

  石川さん宅の鴨居で発見された被害者のものとされる万年筆は矛盾が多く、最近の鑑定では99.9%別人の者であることが証明できました。

3度目の家宅捜索で石川さん宅から発見された被害者のものとされる万年筆も不審な点だらけです。
 
 

 万年筆が発見された石川さん宅の鴨居は高さ175・9センチ、奥行き8・5センチしかない場所。2度にわたる家宅捜索では一回目は2時間17分かけて12人の捜査員が、二回目は2時間8分かけて14人の捜査員がくまなく探したにもかかわらず見つからなかったのに、3度目の家宅捜索は4人の捜査員がわずか14分で万年筆を発見し石川さんの兄に素手で万年筆を取らせるなど不自然な点だらけです。
 

 当時捜索に加わった元刑事は「鴨居は確かに調べたが何もなかった」「後になって万年筆が見つかったと聞いて驚いた」と弁護団に証言。発見万年筆には被害者が事件当日まで使っていたものとは違うインクが入っていました。
 



石川さんの無実を確信

 半日かけて狭山事件の現場を歩いた「獄友」の二人は、何を感じたのでしょうか。


 桜井昌司さん(布川事件えん罪被害者)の話
「被害者の女子学生がいつでも逃げ出せる状況にあるのに、見知らぬ男性についていくことなどありえない。何度も捜索した現場からあとになって証拠物が発見されるなど事実と自白には矛盾がありすぎる」

 

 菅家利和さん(足利事件えん罪被害者)の話
「万年筆は石川さん宅の鴨居から発見されたがその経緯が不自然で明らかに警察のねつ造だとわかった。小柄な私でも見える高さにある万年筆を2度の家宅捜索で見逃すはずがない。誰が考えてもウソだ」

 「獄友」の3人はともに密室で行われた厳しい取り調べで、やってもいないのにウソの自白に追い込まれています。

 現地を歩き終えた桜井さんは「単独でおこなった行為はウソを並べられる。しかし被害者との会話はやっていないから答えられない」、菅家さんは「体験していないことを無理矢理言わされるつらさは体験した人でないとわからない」と経験者にしかわからない感想をのべています。


 石川さんの無実を確信した二人は、再審無罪を勝ちとるまでとともに闘うことを誓い合いました。